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脂質異常症(脂質代謝異常症)~コレステロール・中性脂肪の病気~

脂質代謝異常症とは

脂質代謝異常症は、血中脂質の異常により動脈硬化や心血管疾患のリスクが増加する状態を指します。その中でも、高LDLコレステロール血症低HDLコレステロール血症、および高トリグリセリド血症が代表的な異常です。

①高LDLコレステロール血症

LDLコレステロール(低密度リポタンパク質コレステロール)が高い状態を指します。一般的には、140 mg/dL以上が高LDLコレステロール血症と定義されますが、リスクの程度に応じて治療目標は異なります。

・治療をする理由(臨床的意義)

LDLコレステロールは「悪玉コレステロール」と呼ばれ、血管壁に蓄積しやすく、動脈硬化の主要因です。動脈硬化が進行することで、冠動脈疾患(心筋梗塞)、脳血管疾患(脳梗塞)などのリスクが増加します。家族性高コレステロール血症などの遺伝性疾患では、非常に高いLDL-C値が認められ、若年での心血管イベントリスクが高まります。

②低HDLコレステロール血症

HDLコレステロール(高密度リポタンパク質コレステロール)が低い状態を指します。一般的には、40 mg/dL未満が低HDLコレステロール血症と定義されます。

・治療をする理由(臨床的意義)

HDLコレステロールは「善玉コレステロール」と呼ばれ、余分なコレステロールを肝臓に戻す働きを持ち、動脈硬化を防ぐ役割を果たします。低HDL-Cは心血管リスクの増加に関連していますが、HDL-Cを直接的に上げる薬物療法は、現在までの臨床試験で一貫した有益性が示されておらず、主に生活習慣改善が推奨されています。

③高トリグリセリド血症

中性脂肪(トリグリセリド)が高い状態を指します。150 mg/dL以上が高トリグリセリド血症と定義されますが、非常に高い場合(500 mg/dL以上)には膵炎リスクも増加します。

・治療をする理由(臨床的意義)

トリグリセリドはエネルギー源として利用される脂肪の一種で、食事由来の脂質や肝臓で合成される脂肪です。高トリグリセリド血症は肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、アルコール多飲などに関連しています。高TG血症は、単独では直接的な心血管リスクマーカーと見なされていませんが、低HDL-Cや高LDL-Cと組み合わさることで、リスクが増加します。

④複合型脂質異常症

高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセリド血症のいずれかが単独で存在する場合もありますが、これらが複合している場合(複合型脂質異常症)は、心血管疾患リスクが著しく上昇します※1特に、メタボリックシンドロームや糖尿病患者では、これらの異常が複合的に見られることが多いです。

※1:複合型脂質異常症のリスクについて

①高LDL-Cと低HDL-Cの両方を有する患者は、これらの異常がない患者と比較して、心血管イベントリスクが約6倍になるとされています。

参考:Framingham Heart Study

②高トリグリセリド血症と低HDL-Cが同時に存在する場合、心筋梗塞や脳卒中のリスクが5倍以上に増加することが示されています。

参考:Copenhagen City Heart Study

脂質代謝異常症を放っておくとどうなるの?

動脈硬化が進行しやすくなるため代表的な疾患としては①冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)②脳血管疾患(脳梗塞)③末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)などがあげられます。動脈は全身に血液を送るホースなので、動脈硬化は腎臓などの他の臓器にも悪影響を与えます。

治療について

生活習慣改善(運動・食事など)+薬物療法が基本になります。

脂質異常症の分類 治療方針
高LDLコレステロール血症 スタチンを中心とした薬物療法による治療が強く推奨されます
低HDLコレステロール血症 薬物療法よりも運動や禁煙、体重管理が推奨されます
高トリグリセリド血症

生活習慣の改善(運動、アルコール制限、糖質制限など)や

フィブラート系薬剤、オメガ3脂肪酸の投与が考慮されます。

・運動療法について

①運動療法の効果

LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の減少:

運動により、LDL受容体の活性が増加し、血中のLDL-Cの除去が促進されます。ただし、運動単独では大幅な低下は期待できず、主に生活習慣全般の改善や薬物療法との併用が効果的です。

HDLコレステロール(善玉コレステロール)の増加:

運動はHDL-Cを増加させ、血管内のコレステロールを肝臓に戻す「逆コレステロール輸送」を促進します。持続的な有酸素運動を行うことで、HDL-Cが約5-10%程度増加することが報告されています。

トリグリセリド(中性脂肪)の減少:

運動により、トリグリセリドの分解が促進され、血中の中性脂肪が減少します。運動後24〜48時間以内に顕著な効果がみられ、持続的に運動を続けることで長期的な効果が期待されます。

②運動の種類と推奨量

・有酸素運動

有酸素運動は、脂質異常症の改善に最も効果的です。中等度から高強度の有酸素運動を週150分以上行うことが推奨されていますので参考に。

種類 推奨量(参考)
ウォーキング 息が上がる程度の早歩きで30分~60分を1日1回、週5回程度行う
ジョギングやランニング 無理なく行えるペースで開始し、持続時間を徐々に延ばす。
サイクリング 屋外または屋内で行い、20~30分を目安に持続。中等度の強度で行う。
水泳や水中運動 水中での運動は関節に優しく、高齢者や関節痛がある方にも適しています。30~60分を週3回程度。

・筋力トレーニング

筋力トレーニングは、有酸素運動と併用することでさらなる脂質改善が期待されます。週2回程度、全身の主要な筋群を対象にした筋力トレーニングが推奨されます。トレーニングとしては、ダンベルやレジスタンスバンドを使ったトレーニングや自重トレーニング(スクワット、プッシュアップ・腕立てふせなど)があります。

③運動の強度と頻度

運動の強度は、個人の体力に応じて調整が必要です。目安として、「会話ができるが、やや息切れする」程度の中等度の運動強度が推奨されます。より高い効果を得たい場合は、「汗ばむが、会話はできる」程度の強度が望ましいです。

週に少なくとも150分の中等度の運動、または75分の高強度の運動が推奨されています。これを1日30分、週5回程度に分けて行うと、継続しやすくなります。いきなり週5回は難しいと思いますので、週3回程度を最初の目標にして徐々に増やしていきましょう。長期的な脂質管理には、継続が非常に重要です。

④運動絵用法の注意点

運動開始前の評価 高リスク患者(特に冠動脈疾患や糖尿病を持つ患者)においては、運動を開始する前に医師に相談することがお勧めです。
無理のない範囲で開始 運動に慣れていない場合は、低強度の運動から徐々に強度を上げることが重要です。急な過度の運動は筋肉や関節の障害、心血管リスクを高める可能性があります。
続けられることを目標に 短期間での劇的な改善は期待できないため、生活習慣として持続的に行える運動を考えることが大切です。楽しみながら続けられる運動を選ぶことが効果的です

・食事療法について

食事療法は下記のポイントを意識してみてください。

①摂取カロリーのコントロール

ポイント 目的
①摂取するカロリーを意識します。

必要なカロリー量は、基礎代謝量と活動レベルによって人それぞれ異なります。基礎代謝量は年齢や性別、体重、筋肉量などによって異なります。

基礎代謝量の計算は体重(㎏)×25~30Kcalが目安になります。活動量が多い人はこの値を増やし、少ない人は減らします。

②食事記録をつける

食事記録をつけることで、日々のカロリー摂取量を把握しやすくなります。

写真を撮るなどで記録することで栄養指導などの役に立ちます。

記録することで無意識のカロリー摂取(おやつや飲み物など)を防ぎ、食習慣を見直すきっかけになります。

③食事のバランスを見直す PFCバランス(Protein, Fat, Carbohydrate)を適切に保つことが重要です。理想的な割合は、たんぱく質15-20%、脂質20-30%、炭水化物50-60%とされています。
④食品のカロリー密度に注意 カロリー密度の低い食品(野菜、果物、豆類、全粒穀物など)を多く摂取し、カロリー密度の高い食品(揚げ物、菓子類、加工食品など)は控えるようにします。低カロリー食品でも満足感が得られるため、総エネルギー摂取量の抑制に役立ちます。
⑤食品ラベルを確認する習慣を身につける 加工食品や調理済みの食品には、予想以上にカロリーが含まれていることがあるため、ラベルの確認を習慣にします。
⑥調理方法の工夫 調理の際に油の使用量を減らすことは、エネルギー摂取量を抑えるのに効果的です。揚げ物や炒め物は控え、蒸す、煮る、焼く調理法を選びます。また、無脂肪や低脂肪の食材を選び、脂肪分の少ない調理を心掛けます。
⑦ポーションコントロール 食事の際に一度の食事量を適正にコントロールすることが重要です。大きな皿を避け、小さめの皿に少量ずつ盛り付けることで、視覚的に満足感を得ることができます。食べすぎを防ぐため、必要な分だけ盛り付け、余分な食べ物を避けるようにします。
⑧飲み物のカロリー管理 飲み物に含まれる隠れたカロリーに注意します。砂糖を含む飲料(ジュース、清涼飲料水、アルコール類)はカロリーが高い場合が多いため、水、無糖茶、ブラックコーヒーなどを選びます。

②脂質の種類と摂取量の見直し

脂質の種類 摂取量について
飽和脂肪酸(バター、ラード、肉の脂身など) 控えめにし、総エネルギーの7%未満にする。
トランス脂肪酸(マーガリン、ショートニング、加工食品) 極力避ける。
多価不飽和脂肪酸(青魚、亜麻仁油、エゴマ油などのω-3系脂肪酸) 積極的に摂取。
一価不飽和脂肪酸(オリーブオイル、菜種油、ナッツ類) 適度に摂取。

③コレステロールの摂取制限

食品からのコレステロール摂取は適度に制限し、1日200mg未満を目指す。動物性脂肪や卵黄、内臓系食品の摂取を控える。

④食物繊維の積極的摂取

水溶性食物繊維(野菜、果物、海藻、豆類、オートミールなど)を増やし、コレステロール吸収を抑える。1日あたりの食物繊維摂取量は20~25gを目標にする。

⑤魚類の摂取を増やす

青魚に豊富なEPA/DHAを含む魚を週2回以上摂取し、血中脂質改善に寄与する。魚を食べる機会を増やして肉の摂取を減らすことを意識しましょう。

⑥糖質の摂取について

砂糖や精製された炭水化物(白米、パン、菓子類など)は血糖値や中性脂肪の急上昇を招くので、たくさん摂取するのは控えましょう。

⑦アルコール摂取の制限

アルコール(ビール、日本酒、ワインなど)は中性脂肪の増加に寄与するため、適度に制限を心がけましょう。飲酒量の目安は1日当たりエタノール量20~30g以下を目安にしましょう。健康のために休肝日をつくりましょう!

⑧塩分摂取の制限

高血圧予防も含めて、塩分摂取量を1日6g未満を意識しましょう!

 

薬物療法

脂質代謝異常症(高コレステロール血症、高中性脂肪血症など)に対する薬物は複数あります。

A:高LDL血症(高コレステロール血症)の治療薬

①スタチン療法:脂質管理の中心薬剤

作用機序:HMG-CoA還元酵素阻害による肝臓でのコレステロール合成抑制、LDL受容体のアップレギュレーションによりLDL-C低下を行います。

薬品名:一般名  
ストロングスタチン(LDL-Cを低下させる効果が強い) マイルドスタチン(LDL-C低下は比較的穏やか)  
アトルバスタチン プラバスタチン
ロスバスタチン フルバスタチン
ピタバスタチン シンバスタチン

エビデンス:CTT(Cholesterol Treatment Trialists' Collaboration, 2010年)20の主要試験を対象とし、1 mmol/L(約40 mg/dL)のLDL-C低下が心血管イベントリスクを約22%減少させることが示されました。

非スタチン系薬物治療

・エゼチミブ

作用機序:小腸におけるコレステロール吸収阻害

エビデンス:IMPROVE-IT試験でスタチンにエゼチミブを追加してLDLをさらにさげることで心血管イベントがさらに低下

・エボロクマブ(PCSK9阻害薬)

作用機序:PCSK9によるLDL受容体分解を阻害し、LDL-Cを大幅に低下

エビデンス:FOURIER試験: 高リスク患者において、LDL-Cのさらなる低下と心血管イベントの減少が確認された・

B:高トリグリセリド血症(高中性脂肪血症)の治療薬

①フィブラート系薬剤

ベザフィブラートフェノフィブラート

作用機序:PPARα活性化により脂肪酸酸化を促進し、中性脂肪(TG)の分解を促進

エビデンス:ACCORD試験: 高TG血症と低HDL-Cを有する糖尿病患者での心血管イベントリスク低減が示された

②オメガ-3脂肪酸

EPA製剤(イコサペント酸エチル)

作用機序:TGの合成抑制、脂肪酸の酸化促進

エビデンス:REDUCE-IT試験(2018年): 高TG血症患者における心血管イベントの有意なリスク低減が示された

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院長から

生活習慣病は痛くもかゆくもないのが特徴です!しかし心筋梗塞・脳梗塞などを起こすと取り返しがつかないことになります。一つしかない体を大切にするためにしっかりと勉強していただき、ともに頑張っていければと思います。

☆自分で食事の成分を調べるのは難しい人はアプリなどを使ってみてください☆

「日本食品標準成分表」といったキーワードで検索してみてください。ご自身にあった道具をみつけて栄養管理に挑戦してみてください。

写真でカロリーや成分を記録してご自身の生活に役立ててください。

 

 

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