無症候性心筋虚血とは?症状がないのに危険な心臓病
症状が無い心臓病「無症候性心筋虚血とは」?
最近、ニュースで「無症候性心筋虚血」という病気が報道されて、クリニックでも質問されることが増えたのでブログにも記載させていただきます。
心臓の病気と聞くと、多くの方は「胸が痛む」「息切れがする」といった症状を思い浮かべるかもしれません。しかし実際には、まったく症状が出ないまま進行する心疾患も存在します。それが「無症候性心筋虚血(Silent Myocardial Ischemia)」です。
心筋虚血とは何か
心筋虚血とは、心臓の筋肉(心筋)に十分な酸素や栄養が届かなくなる状態を指します。主に冠動脈の動脈硬化や血栓が原因で、血流が妨げられることで発症します。
無症候性」の意味
通常、心筋虚血が起きると胸痛や息切れといった症状が現れますが、無症候性心筋虚血ではこうした症状がまったく現れません。そのため、病気に気づかず放置され、突然死や心筋梗塞といった重篤な結果につながることがあります。前駆症状が無いため見つけるのが非常に難しい病気です。
症状が出ない主な理由
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糖尿病性神経障害:痛みを感じにくくなる
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高齢者:感覚が鈍くなっている
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軽度の虚血:安静時には問題が表面化しない
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個人差:痛みに対する感受性の違い などが理由として挙げれらます。
無症候性心筋虚血に注意すべき方々
以下のような心血管リスクの高い方は、無症候性心筋虚血の可能性を考慮し、定期的な検査をおすすめします。
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糖尿病(特に5年以上経過している方)
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慢性腎臓病(eGFR60未満)
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高血圧、高コレステロール血症
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喫煙歴
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肥満(BMI25以上)
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家族歴(心筋梗塞や突然死)
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高齢者(65歳以上)
無症候性心筋虚血の検査法と診断
負荷心電図
運動や薬剤で心臓に負荷をかけることで、心筋虚血を検出します。最も基本的なスクリーニング検査です。しかし感度は限定的で、心筋虚血を誘発するリスクもあリマス。しっかり評価を行うために冠動脈CTや心筋シンチグラフィーをおすすめしています。
心エコー
心臓の動きを評価して、心臓の壁運動異常を評価します。放射線を使わないため、繰り返し行える利点があります。
心筋シンチグラフィー(核医学検査)
血流の分布を詳細に評価でき、広範囲の虚血の有無を高精度に検出します。糖尿病患者などリスクの高い方に適応されます。
冠動脈CT(CTA)
冠動脈の狭窄やプラークを非侵襲的に評価できます。造影剤の使用が必要です。
心臓カテーテル検査
精密検査として、冠動脈の狭窄を直接評価し、同時に治療(PCI)も可能な検査です。侵襲的な検査のため、リスク評価に応じて実施されます。
無症候性心筋虚血の治療方針
薬物療法
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抗血小板薬(アスピリンなど):血栓形成予防
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スタチン:LDLコレステロール低下+動脈硬化抑制
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ACE阻害薬/ARB:血圧・心保護、腎機能維持にも寄与
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β遮断薬:心拍数・心筋酸素消費量の制御
※ACE阻害薬・ARBは、高カリウム血症や腎機能低下に注意が必要です。
カテーテル治療(PCI)
ステントやバルーンで冠動脈の狭窄を拡げる治療。症状がない場合でも、虚血の程度が強い場合には検討されます。
外科的治療(CABG)
多枝病変や高度狭窄、糖尿病合併例では冠動脈バイパス術が推奨されることもあります。
食事・生活習慣の見直し
食事療法
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塩分制限
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飽和脂肪酸の制限
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DASH食や和食中心の野菜・魚主体の食事
運動療法
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有酸素運動:週3〜5回・30分程度(ウォーキングなど)
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筋力トレーニング:週2回を目安に軽い負荷
禁煙とストレス対策
禁煙は最重要。ストレスは自律神経や血圧・心拍数に悪影響を与えるため、睡眠・趣味・休養の確保が大切です。
フォローアップの重要性
無症候性心筋虚血の管理は一時的な治療ではなく、継続的な健康管理がカギです。
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定期的な血液検査・心電図・画像評価
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確実な内服や生活習慣の振り返りなどの自己管理
まとめ
無症候性心筋虚血は、症状が出ないからこそ見逃されがちですが、突然死や心筋梗塞のリスクを高める重大な疾患です。特に糖尿病・腎臓病・高血圧などのリスクを持つ方は、定期的な心臓チェックと生活改善が必要です。
生活習慣病の治療をしている目的は心筋梗塞などの血管由来の病気の予防です。自分自身やご家族の健康を守るためにも、「症状がない=安心」ではなく、「症状がないからこそ注意」を心がけましょう。
いとう内科クリニック 伊藤 大輔